2017/08/18

クランクひずみによるパイロットパワーの計測1

以前の記事に書いた通り、ANT+モジュールにより市販パワーメータGarmin Vector 2Jのデータを受信しパイロットパワーを測定するつもりでしたが、どうもGarmin Vector 2Jではリカンベント式人力飛行機のパワーをうまく計測できないようなので、ひずみゲージを使って自前のパワーメータを作ることにしました。

パワーメータの作製は学生時代(~10年前)に行ったことがありますが、その際にはひずみゲージのゼロ点を半固定抵抗で補正しつつ10~12bitのマイコン内蔵ADCで読み込み、EEPROM/Flash ROMにデータを書き込む構成としていました。
最近は高分解能ADCや無線モジュールが利用しやすくなったこともあるので、クランクひずみの測定回路にはゼロ点調整等は設けず、ひずみゲージを含むブリッジ回路の出力電圧を適当に増幅した後にAD変換し無線で送信する構成としました。
ひずみゲージ用のブリッジ回路は(左/右)足 x (上/下)面用に4系統用意し、1~4ゲージ法のすべてに対応可能なようにしました。

製作したひずみゲージデータの送信機。無線モジュールのアンテナとアンチエイリアスフィルタのキャパシタは未実装。サイズは20 x 67.5mm、重量は5g
上の写真は製作したひずみゲージデータの送信機です。
設計時に何を考えて各種部品を選定したかなどを以下に記します。

ひずみゲージの選定

ひずみゲージは特定材料の線膨張係数の補償を行うように設計されているので、クランク材質に合わせたものを選びます。
今回の場合はアルミ用(東京測器研究所のものだと緑色のもの)です。
その他に決めなくてはならない仕様としてはゲージ長がありますが、今回はクランク歪みの測定で、局所的な情報が必要ないので簡単に手に入るものの中で最長の5mmを選びました。
また、基板との配線の手間を減らすためにリード付きのFLA-5-23-1LJCを選びました。
(余談ですが、東京測器研究所のひずみゲージは個人でも購入可能なので、e-ゲージショップに並んでいるものから選ぶ必要はありません。)

抵抗の選定

ひずみゲージの抵抗変化は抵抗ブリッジにより電圧変化に変換される場合が多いですが、ブリッジを構成する抵抗の良し悪しによっては、電圧変化に大きな温度依存が乗る場合があります。(ある意味ではセンサの一部と言えます)
温度係数の小さな抵抗は高価なので、その他の回路とのバランスを考えて25ppm/degCの薄膜抵抗 進工業製RR1220P-121-Dを選定しました。
また、許容電力にある程度の余裕を持たせるためにサイズは2012としています。

電源回路の検討

クランクひずみ送信機の電源には重量の観点からLiPoバッテリを利用します。
低ノイズの電源回路をコンパクトに作るにはリニアレギュレータを利用するのが簡単です。
また、基板専有面積を抑えるためにデジタル・アナログの電源は共有することにしました。
LiPoバッテリの容量をフルに活用するために、システムの電源電圧は2.85Vとしました。

AD変換器の選定

クランクひずみによるブリッジ回路の電圧変化は小さいので、高分解能(24~16bit程度が目安)のものを使用します。
また、クランクが1周する間に30点程度のデータ(平均誤差1%に対応)を取得しないと、振動するデータを平均する際に誤差が乗るので、サンプリングレートが小さすぎると問題になります。
さらに、基板面積の節約のために、PGA内蔵のものが望ましいです。
これらに電源電圧の条件を加えて検討し、128倍PGA内蔵、8入力、24bit、2ksps Delta Sigma型ADCのTexas Instruments ADC1248を利用することにしました。
同社のADCにはビット数が16bitで他のスペックが同じものもありますが、値段があまり変わらないようなので24bitのものを使いました。
使用する条件(128倍増幅、320sps)だと実効ビット数は16.2bitなので、16bitのものを使っても問題ないとは思います。
ADCには基準電圧源が内蔵されていますが、今回はratiometricな測定を行いたいのでADCの基準電圧には外からフィルタをかけたシステム電圧を供給します。
ブリッジ回路とADCの間には簡単なアンチエイリアスフィルタを入れました。
アンチエイリアス回路に利用するキャパシタは、手持ちの部品の関係から低誘電率系(CH)のセラミックコンデンサとPMLCAPを利用しました。

無線モジュールの選定

基板サイズ・重量を考えるとADCと無線モジュールの間にはマイコンを挟みたくないので、プログラマブルなモジュールを使います。
手軽に入手でき、技適の問題もクリアしているものの候補としてはXBeeTWE-Liteがありますが、表面実装可能なことからTWE-Liteを使いました。
アンテナが基板中央に来る配置になっていて、アンテナの性能は十分に発揮できない配置ですが、受信側基板との距離が1mもないことからこの部分は妥協しています。

その他

回転数の測定用に裏面にジャイロのパターンを設けました。(実際には利用せず)
また、動作確認用に4色のLEDをTWE-Liteにつなげています。

この手のアナログ・デジタル混載回路では定石ですが、アナログ・デジタルグラウンドの分離やリターンパス等を意識して基板のパターンを引きました。

基板の組み立て後は、ブリッジ回路部を中心に念入りにフラックスを洗浄しました。
大抵の場合は大丈夫だとは思いますが、フラックスの絶縁抵抗が低く、かつその抵抗に温度・湿度等の依存性がある場合には測定結果が不安定になる要因となるので、念のために行っています。

ひずみゲージの接続用にコネクタを用意しましたが、接触抵抗の変化や異種金属接合部での起電力とその温度依存が問題になり得るので、コネクタは用いず、ひずみゲージから延びるケーブルを直接基板にはんだ付けしました。

TWE-Liteのファームウエアはソフトウエア開発環境 TWELITE NET SDKを用いて開発しました。
個人的にはわかりにくいと感じた資料だったのですが、SDK全部入りファイルをダウンロードすると開発に必要な情報は全て手に入りました。

測定した結果はデータロガーHPA_Navi IIIで受信しますが、受信側に用いるTWE-Liteにも専用のファームウエアを用意しました。

以上でひずみ測定部分が完成しました。
次回はひずみとトルクの換算係数を得るために行った荷重試験について書きたいと思います。