高度測定法の比較

2012/07/19

資料

超音波距離計、GPS、気圧計による高度計測の実験を行ったので、その結果をまとめて人力飛行機に向いた高度計測法は何かを考えてみたいと思います。

超音波高度

Daedalusにも使われた人力飛行機では標準的な高度計測法です。
超音波の放射点と地面等の反射点の(最短)距離を高度としています。

現在使用している超音波距離計モジュールMaxbotix MB1360はかなり広い範囲に超音波を放射するため、グラウンドクルーが機体近くにいた場合などには誤った高度が測定されることがあります。
対策としては、コーンを取り付けて超音波の届く範囲を制限することが考えられます。

波の反射時間を利用した高度計測にはレーザー・電波高度計もあります。
ただし、通常のレーザー距離計で使う光は水を通り抜けてしまい、水面との距離の測定はできないようです。

気圧高度

通常の航空機で使われる高度計測法です。
標準大気モデルでの気圧と高度の関係から高度を求めています。
ゼロ点を適当に定めれば地面との距離もわかります。

人力飛行機の典型的な飛行高度である10m程度で生じる気圧差は小さいものなので、簡単に手に入るものでは最も精度の高いモジュールMeasurement SpecialtiesMS5611-01BA03で実験を行いました。
詳しい特性は同じモジュールで実験を行った@ina111さんのブログ記事を参考にしてください。
気圧高度には0mのリファレンスとして使った気圧が変動すると指示される高度と実際の高度の差が出てしまうという弱点があります。
また、たいていのセンサはダイアフラムのひずみを気圧として検出する方式なので、機体に載せて振動が加わった場合にはノイズが出ることも考えられます。

GPS高度

通常のGPSによる高度で、GPSモジュールから出力されるものです。

WGS84楕円体と測定に使うGPSアンテナの距離を高度としています。
地面との距離に直すには、測定地点のジオイド高、標高データが必要になるため、精度の高い測定を行いたい場合は事前に測量を行うのが望ましいです。

地面の裏側に隠れているGPS衛星からの電波は届かず、水平方向と高度方向のGPS衛星の配置が非対称になるという事情で、GPSの高度情報は水平方向に比べて一般的に精度が悪くなります。

搬送波位相を使って後処理を行えばより高精度な情報が得られます。
(GPS受信機を2台用意すればリアルタイム測位も可能です)
搬送波位相を使う方法には、衛星数が変化するポイントやサイクルスリップが起こるポイントで不連続に座標が変化するという弱点があります。
また、精度は基準点との距離、可視衛星数によって変化します。

測定法の比較

以上の測定法を実績のある超音波高度と比較します。
超音波高度には、グラウンドクルー(?) から反射による乱れが入っています。
(気圧センサは試験飛行で使用したことがないので、データが取れ次第追記します)

単独測位との比較を行ったグラフを以下に示します。
超音波高度・GPS高度(単独測位)・INS/GPS高度の比較
機体が静止しているはずの593640秒程度までに2m程度の高度変化があることがわかります。
高度変化の傾向は似ていますが、変化量には大きな差があります。

後処理Kinematic測位との比較を行ったグラフを以下に示します。
超音波高度・GPS高度(後処理Kinematic)の比較
測量の結果を適用する前のものは、滑走路の南北でのGPS高度の違いを反映して全体的に傾いていますが、測量の結果を適用したものは超音波高度と比較的よく一致しています。
しかし、可視衛星数の変化やサイクルスリップの影響でKinematic測位による高度にはところどころ急激な飛びが見られます。

以上の測定法の特徴をセンサのスペックとともにまとめたものが以下の表になります。

高度測定法の比較

超音波気圧GPS
(単独)
GPS
(後処理Kinematic)
サンプルレート- 10 Hz- 100 Hz
(要平均化)
- 5 Hz- 5 Hz
リアルタイム
(2台の受信機が必要)
絶対高度
(基準点が必要)

(要標高データ)

(要標高データ)
測定範囲- 10 m- 5000 m
(精度の高い範囲)
- 10000 m
(設定で可変)
- 10000 m
(設定で可変)
精度- 数 cm- 数 m
(ノイズ・ドリフトあり)
- 数 m
(ドリフトあり)
- 数10 cm
(飛びあり)

今回行った比較から、試験飛行や琵琶湖など絶対高度が重要な場合は超音波は優れた高度計測法であるといえます。
したがって、人力飛行機での高度計測には超音波距離計をメインに使い、その他の方法は補助的に使うのがよいと思います。