2011/07/17

GPSチップアンテナの実験III

さらに前回の続きです。

今回はチップアンテナをGPSモジュールにつなぎ、きちんと受信できるかどうかを確かめてみました。
また、これまで使っていた市販のパッチアンテナとの比較も行いました。

実験は下の写真のようにベランダにアンテナを設置して行いました。
南北に建物があるためGPS衛星の電波を捉えるにはあまりよい環境ではなく、運用時より厳しい条件になっています。

設置したパッチアンテナ/チップアンテナ
右側の銅が露出しているものがチップアンテナ、左側の四角いものはパッチアンテナです。
GPSモジュールu-blox LEA-6Tが出力するデータをUSB経由でパソコンに送り、u-blox社提供のGPS評価ソフトウエアu-centerでモニタしました。

下にパッチアンテナ/チップアンテナを接続したときのu-centerのスクリーンショットを示します。

パッチアンテナの結果

チップアンテナの結果

スクリーンショットの右端3列のグラフに受信したデータがまとめて表示されています。
左上、左下、中央上のグラフは捕捉している衛星についての情報で、パッチアンテナ(チップアンテナ)の場合、GPS衛星10(9)基とMSAS衛星1基の合計11(10)基が見えていることがわかります。
チップアンテナでは、C/N比が一番悪いもののパッチアンテナは捉えていたPRN番号31の衛星が見えていません。

ここから各衛星のC/N比(dB)を抜き出したものが下の表です。

PRN番号367131619212331129137平均
パッチ35.034.034.035.041.044.035.034.031.041.046.037.3
チップ34.033.039.036.029.042.029.035.0-31.038.034.6

どちらのアンテナのC/N比がよいかはアンテナの指向性の違いのせいかまちまちです。
全体的な傾向としてはパッチアンテナのC/N比が高くなっており、平均では3dB程度の差が出ています。

スクリーンショットの中央に見えているwindowにはハードウエアの状態を表示しています。
特に注目すべきパラメータを下の表にまとめました。

NoiseAGCJamming
パッチ12562.3%4.7%
チップ11289.2%9.8%

分解写真を参考にすると、今回使ったパッチアンテナにはLNA->BPF->LNAという構成でフロントエンドが入っていることがわかります。
このフロントエンドのノイズのため、パッチアンテナのNoiseのパラメータはLNAなしのチップアンテナより大きくなっていると考えられます。
また、パッチアンテナの場合、LNAのゲインの分だけGPSモジュール内部LNAのゲインも下がっています。
GPSモジュールのデータシートによれば、JammingはGPS周波数付近の妨害になる電波の強度を示すようなのですが、パッチアンテナの場合は帯域の狭いBPFが入っているためか値が小さくなっています。

スクリーンショットの右上には、測位した座標等の情報が表示されています。
ここには、測位の精度を示すパラメータも並んでいます。
それを抜き出したものを以下の表にまとめました。

3D精度2D精度PDOPHDOP
パッチ2.28m1.62m1.40.8
チップ4.49m3.12m1.71.0

チップアンテナのほうがどのパラメータも悪い値を示していますが、おそらく捉えたGPS衛星の数が1つ少ないせいなのではないかと思います。

以上の結果から、
  • 今回使ったチップアンテナと基板の組み合わせでも十分GPS信号を受信できる
  • その性能はパッチアンテナと同程度か少し劣る程度
ということが言えます。
しかし、StrawberryLinuxの商品説明のページにある、「この小さいアンテナでこれより面積が大きいセラミックアンテナよりも多くの衛星を受信できます」というほど高い性能は確認できませんでした。

チップアンテナには、
  • GPSモジュールと同一基板上に搭載可能で、アンテナ搭載スペースを削減できる
  • パッチアンテナのLNAに必要な電源(消費電流15mA程度)が不要になり、バッテリ駆動時間が延びる
  • 軽量である
という利点があるので、次に設計する基板には搭載を検討しようと思っています。

2011/07/09

GPSチップアンテナの実験II

前回の記事の続きです。

前回は基板を作るところまででしたが、今回はアンテナを乗せて測定した結果について書きます。

測定結果を示す前に、データシート(PDF)について少し補足があります。
このチップアンテナのデータシートでは、チップの端子のうちひとつはFeeding Point、もうひとつはNCとなっています。
しかし、2つの端子の間の抵抗を測定してみると1Ω程度で、NCは「内部とつながっていない」という意味では使われていないようです。
そのため、固定のために用意するパッドの大きさによってはアンテナの特性が変わってしまうことが予想できます。
(逆にこれを利用してアンテナの特性を合わせ込むのに使えるかもしれません)

下の図にアンテナのセットアップ、リターンロスの測定結果を示します。

アンテナのセットアップ。(a)垂直に立てたもの。(b)NC端子を絶縁したもの。(c)NC端子をはんだ付けしたもの(d)NC端子用のパッドを取り除いたもの
リターンロスの測定結果。垂直に入る点線はGPS周波数
リターンロスのスミスチャート。共振周波数にマーカーをつけた

セットアップ(a)では、アンテナを基板上に垂直に立て、基板の誘電率の影響を極力受けない状態で、アンテナの生に近い特性を調べました。
このアンテナは基板上に取り付けた場合にGPS周波数に合うようになっているので、このセットアップでは電気長が足りず、GPS周波数より高いところに共振点があります。

セットアップ(b)では、NC端子とパッドをカプトンテープ絶縁した状態で測定を行いました。
このときの共振周波数は1.545GHzでGPS周波数に近い値になっています。
また、GPS周波数でのリターンロスも10dB程度あり、データシートにある9.5dBと同程度の値が得られています。

セットアップ(c)では、データシート通りにNC端子を固定用パッドに接続し測定を行いました。
このときの共振周波数は1.46GHzでGPS周波数からかなりずれてしまっています。
NC端子にパッドを接続することによりアンテナの電気長が伸び、低い側に共振周波数がずれたと予想できますが、これがデータシート通りの使い方なので、基板の誘電率や設計に何か問題があるのかもしれません。

セットアップ(d)ではNC端子用のパッドをはがして測定を行いました。
このときの共振周波数は1.565GHzで、これまでのセットアップ中最もGPS周波数に近い値になっています。
また、GPS周波数でのリターンロスも20dB程度と、データシートの値を大きく上回っています。
スミスチャートを見ると、共振周波数でのインピーダンスはほぼ50Ωになっており、受信した電力を効率よくGPSモジュールに送り込めることもわかります。

以上の結果から、1.6mm厚のガラスエポキシ基板上にアンテナを乗せた場合、NC端子を接続しない(b)と(d)のセットアップでうまくGPSアンテナとして働くことが期待できます。
次は最も性能の高いと期待できるセットアップ(d)のアンテナをGPSモジュールに接続し、実際にアンテナとして使えるかどうかを確かめてみようと思います。

2011/07/07

GPSチップアンテナの実験I

現在作製している電装系の基板には、GPSモジュールは搭載されていますが、GPSアンテナは外付けになっています。
人力飛行機に載せる場合、基板の周りが完全にシールドされて電波が入らないということは考えにくいので、GPSアンテナは基板に載せてしまうことも可能です。

そこで、SparkFunで取り扱いのあるGPSチップアンテナが受信に使えるかどうかをテストしてみることにしました。
同じような実験はFenrirさんがすでに行っていますが今回使用したアンテナとは別なものの結果です。

GPS衛星から送られてくる信号の周波数は1575.42MHz(L1)でマイクロ波の領域に入ります。
マイクロ波の領域になると、アンテナとコネクタを載せる基板の設計によっても性能に大きな違いが出るので、まずはチップアンテナのデータシートを参考に基板の設計を行いました。
作製したのは、アンテナとSMAコネクタだけが載るシンプルな基板です。
データシートにあるとおり、アンテナとコネクタはGND付きコプレーナ線路でつなぎました。
コプレーナ線路を含むマイクロ波線路については、以下の書籍に理論も含め詳しい情報があります。
K. C. Gupta, Ramesh Grag, and I. J. Bahl. Microstrip Lines and Slotlines. Artech House, 1979

この本にある計算式から線路のインピーダンスを求めてもよいのですが、楕円積分が登場する少し面倒な計算が必要になります。
(余談ですが、楕円積分の値はCASIOの高精度計算サイトで求めることができます)
いくつかの無料のツールでこの計算を簡単に行えるのですが、たとえば
  1. マイクロ波回路シミュレータAnsoft Designer SVに付属のストリップライン計算ツール(現在は配布されていない模様)
  2. Agilent AppCad
  3. モーメント法マイクロ波シミュレータSonnet Liteによる断面形状からの数値計算(ただし、コプレーナ線路の計算には注意が必要)
  4. I-Laboratoryオンライン計算ツール
等があります。
今回は、最も簡単に利用できる4で計算を行いました。
このツールでの計算では、楕円積分を近似式で置き換えていますが、実用上十分な精度が得られます。

このツールを使って50Ωのコプレーナ線路を設計し、製作した基板が下の写真です。
製作したGPSチップアンテナのテスト基板
サンハヤトのガラスエポキシ片面基板をエッチングしコプレーナ線路を作り、裏面には銅箔テープを貼ってグラウンドにしています。
また、基板の端にも銅箔テープを貼り、裏表のグラウンドを接続しています。
さらに、コプレーナ線路の放射ロスの原因となるスロットモードの抑制のために、線路と平行に波長より十分短い間隔でビアを打ってあります。

この基板にアンテナを取り付け、ネットワークアナライザでその特性を測ってみました。
基板の話がかなり長くなってしまったので、測定結果は次回の記事に書きたいと思います。